一匹狼くん、 拾いました。弐


「あのクソ親殺していいか?」

 俺の右隣にいる仁がいう。

「殺したらダメだと思うけど右に同じく。いや本当、一体どうしたらあそこまで性根が腐るんだろうな!」

 俺の左隣にいる結賀は、そう言って勢いよく小石を蹴った。

「ハハ、そうだな」

「ああ、良かった。ミカが笑った。ミカがあまりに笑わないから、てっきり、ひどいこといわれすぎて表情筋死んじゃったのかと思ったわ」

 ため息をついて、心の底から安心した様子で仁はいう。

「仁……っ」

  親父とはあまりに正反対な態度をとる仁を見てると、心がポカポカして、涙が出そうになった。

 俺は何も言わず、仁の肩に顔を埋めた。

**

 ミカの息が、両目からかすかに出てる涙が、俺の肩に落ちた。

「……っ」

 俺は何も言わず、唇を噛んだ。

 神様は総じて残酷だ。――俺は報われない恋なんてしたくなかった。

 ミカを好きになったのがいつかなんてわからない。

 もしかしたら一目惚れだったのかもしれない。男に一目惚れなんて、気持ち悪いと思うけど。

 でもミカは、母親のせいで人間嫌いをこじらせてた俺が、唯一綺麗だと思えた奴なんだ。

 結賀や廉や伊織のことはそうは思えなかった。
俺は人間なんてみんな汚いと思ってたから。

 ミカは俺の何十倍も酷いことをされたはずなのに、本当にビックリするくらい真っ直ぐで、考え方があまりに素直で。初めてこいつの事情を知った時は、そんな環境で一体どうしたらこんないい子ができるんだと疑ったもんだ。

 こいつの純粋さを、素直さを壊したくないと思った。

 そばで守ってやりたいと思った。それが恋だと知ったのは、ミカが葵に裏切られて、涙を流した時だった。

 涙を流してるミカを、守ってやりたいと思った。俺のそばに置いておきたいと思った。

「仁~っ」って、葵の代わりでもいいから、ミカに求められたいと思った。
 そんな執着めいた感情を恋と呼ばずしてなんと呼ぶのか。

 男に恋なんてしたくなかった。でも俺は、ミカを好きになってしまった。この恋は、たぶん、一生叶わない。それでも俺はミカのそばにいたい。

 自分は今、ミカの一番の親友になれてるから。たとえこの恋が叶わなくても、俺はミカといれるだけで幸せだから。