また、愛する人が目の前からいなくなる時が来るかもしれない。
だって、美矢は猫みたいな人だから。気まぐれにいなくなるかもしれない。

自分の気持ちを伝えずにこのまま生活していて、後悔しないのだろうか?有限にしかないこの時間を、ただ幸せだとこのまま過ごして良いのか?

急に押し寄せた不安を、どうやって封をしたら良いのか分からない。

台風の日、自分の殻を破れたと思っていた。けれど僕は、皆みたいに目まぐるしく成長するなんて出来ないんだ。


「……とら?大丈夫?顔色悪いよ」

「あ……美矢。おかえり。大丈夫。おじさんだから少し疲れただけ」

「まだ20代でしょ。何言ってるの」


不安になればなるほど闇に呑まれそうな僕だけど、淡い光をもたらすのは、やっぱり高くも低くもないその心地よい声で。

さっき、僕が闇から押し返す役目を担わなきゃって決めたのに。

心配そうに首を傾げる美矢の頬を人差し指でそっと撫でると「なに」と小さく声を上げて目を閉じた美矢に、簡単に不安を溶かされる。


僕からすれば、美矢は闇から押し返す人じゃなくて、闇を淡い光で溶かしてくれる人なのにな、なんて思うと、不安で痛んだ胸の痛みが途端に楽になった。