「なに、してるの?」

「なにって、MV撮るんでしょ?今ラフ描いて構成練ってるからギターでも弾いて待ってて。美矢ちゃんの熱が冷めないうちに早めに撮影しなきゃ……!」


刺さったもの、感じた想いを口に出すではなく、どう表現するのか描き起こすことに移ったケンゴの表情は、1人前のクリエイターである優に似たところがある。

一心不乱にクロッキー帳に向かって文字と絵を入れてコンテを作り出すケンゴの勢いに気圧されながら、美矢はギターを構え直した。


「旅猫の主はあくまでケンゴだから、あたしは従うよ。とりあえず歌って待ってる」

「その方が創作意欲湧くからありがたい、よろしく」


自分が教育に関わっている1人の男の子が1人前に育っていく姿を近くで見れることは、なんとなくで教師になった僕だけど凄く嬉しいことで、子供たちは大人が思っているよりずっと、駆け足で大人の手から離れて羽ばたいて行ってしまうことをケンゴを通してまざまざと痛感する。
それは嬉しいことである反面、なんだかこの夏の終わりの季節みたいに、少し寂しい。

もう何もしてあげられることはないかも、なんて思いながら僕はそっと立ち上がり、途中だった掃除をするために縁側から離れることにした。