左耳側に手を添えて音源に聴き入るケンゴは、表情をだんだんと少年から、クリエイターの顔に変えていく。

さっきまで些細なことにあどけない表情を浮かべていた少年とは思えない顔付きで、動きを止めていたケンゴは半開きになっている唇を震わせる。

今まで美矢が弾き語っていたやわっこくて温かい曲たちとは全然違うテイストのこの楽曲は、彼の世界にはどう響いているのだろう。

今どこを聴いているのか分からない状況だし、ほとんど動きもなく、また、僕たちを置き去りにその世界へ入ってしまったケンゴに、少し不安そうな美矢は、大事そうに相棒を抱えて俯く。

ケンゴは光に包まれてきた男の子だ。毛先の短い黒髪は、まるでいつだって太陽を見上げる向日葵の花びらみたいで、ケンゴという少年が明るくまっすぐに育っていることを表してるみたいだ。

こんな少年に『こっちへ来るな』と闇から押し返すような曲はどう映るのだろう。否定されたらどうしよう。
そんな思いが美矢の微かな表情の変化から伝わってくる。

5分に満たない、短いようで長い沈黙の時間が終わりヘッドフォンを外したケンゴは、そのヘッドフォンを僕に乱暴に渡し、持っていたクロッキー帳にえんぴつで一心不乱に何か絵を描き始めた。