テーブルの上のごちそうが綺麗さっぱりなくなり、美矢は相棒のギターを触りにスタスタと縁側へと向かって行く。

その後ろを可愛らしい足音を立ててクロミがついて行ったのを見送り、仕事に出て行ったりょーちゃんの代わりに掃除をしていると、美矢のいつもの柔らかな弾き語りが少し遠くに聴こえて来て、気持ちがほっとする。

ああ、こういう日常の全てが美矢がいることでもっと温かく感じて好きだな、なんて思いながらフローリングワイパーで掃除していると、穏やかな演奏が急に止まり、代わりにクロミの「なおん!」という短い鳴き声が耳に届いた。

何事かと思って掃除を中断して縁側へ向かうと、庭にはクロッキー帳を片手に息を切らしたケンゴの姿があった。


「ちょっとケンゴ、人の家の敷地に上がる時は玄関から来ないと驚くでしょうに」

「ごめん……じゃなくて!だって美矢ちゃんもこじろうも一昨日から連絡しても返事ないし、昨日家に来てみたら不在だってりょうさんに言われたし、今日尋ねたら美矢ちゃんの声が聴こえたからつい」


どうやら事前にこの計画をケンゴに言っていなかったらしく、びっくりして固まっていた美矢は状況を把握して、後ろに立っていた僕を見上げた。