流石プロの仕事だ。後ろで僕と美矢とでBGM係を休み休みやってる間、1度もパソコンから視線を移すことなく、優は全ての作業を1人で終わらせてしまった。


「当初のイメージより優しい出来になったかも。とらちゃんのギターとコーラスが良い方に作用してね」


人生でこんなに歌い続けたことのない僕はすっかりぐにゃぐにゃになってソファーに横たわり、まだまだ元気な美矢が何曲目かも分からない歌を歌い終えた頃、優は久しぶりに僕たちの方を振り向いた。


「流すね、聴いてて」


高いスピーカーとパソコンを繋いだ優は、出来たてほやほやのその楽曲を再生し、満足気にゲーミングチェアに深く腰掛け頭を預ける。


曲の最初は僕が入れたアコースティックの音から始まり、指弾きのこもった優しい音に、いつもと違う美矢の、泣き出しそうな震える吐息が微かに乗り、歌声へと変わる。

Aセクションが終わると徐々に収録した音が加わり、重たくも強い世界観が強まる。

サビは優が新たに加えたピアノとヴィオラの音を基盤に、美矢が願うような歌声が伝えたかった想いを強くがむしゃらに、巻舌になりながら荒々しく伝えてくる。

レコーディング中、1番美矢が曲に憑依したラストサビの部分はピアノの音と、曲で1番泣くように震えていたその声で、シンプルに心に言葉を突き立てる。

その危なかしい美矢の歌声に、必要な所に使われる僕のコーラスパートは、この危なかしい少女を救いあげたい想いが現れてる……と、聴こえれば良いのだけれど。