きっと、月が綺麗な夜に。



全てのレコーディングを終え、美矢の歌声やギターの音、そして僕のアコギの音とコーラスの声との調和を図るためにピアノの音とヴィオラの音を追加でアレンジしてレコーディングした優は、その音を1つにミックスする作業に没頭し始めた。

集中したいだろうからBGMは要らないよね、なんて言った僕に「逃がさないけど」とアコギを握らせた優の迫力には叶わず、僕はBGM係を引き受けることになってしまった。

歌い終わると次のリクエストをぽん、と言ってくるもんだから、かれこれ5曲くらい休みなし。
長く付き合っているせいか、音楽の好みが近いから出される曲名が知らないものがなくて、逆に休む間もない。


「ちょっと、休ませてよ。疲れた」

「あと1曲歌ったらね。次は……」


容赦なしの優は、パソコンから視線を移すことなく、片耳だけで音を捉えて作業しつつ、もう片方の耳でこちらの音を聴いているようだ。


「本当に、昔から器用な耳だね。全く」


皮肉を込めて一言呟いたけれど、多分、聞こえているのにわざと返事をしてこない優に一瞬だけ視線を送り、僕は6曲目の、有名女性シンガーの曲を自分のキーで歌うために、ギターのフレットにカポタストを滑らせた。