きっと、月が綺麗な夜に。

優の比較的キツい方のつり目が僕の指先に向いて、少し考える間があった後、緩やかに綻ぶ。


「音楽なんてやったこと無いとか言って昔からギター爪なの気になってたけど……そっか。じゃあ、お願い出来る?」

「うん。素人だから美矢みたいにすっとは行かないと思うから、厳しく指導して」


普段はお喋りで、色んなことを根掘り葉掘り聞いてくるタイプだけど、僕が濁してきたことに対しては深く突っ込まない優の距離感は昔から変わらない。

そんな変わらない部分を有難く思い、僕も微笑んで頷き、本格的に眠りに入った美矢の体を優の仮眠用のソファーへと移して準備を始めた。


「楽譜初見で弾ける?」

「ごめん、それは難しいかも。仮音と楽譜見比べて適当にアレンジ加えて弾いてみるから聴いてて」


こうして人前でギターを握れるようになったのは美矢と出会ってからもたらされた変化だから、その感謝を美矢に返したい。

もう孤独ぶってずっと子供の頃の待つばかりの僕じゃないんだよと、闇からそれこそ押し返してくれた美矢へ。そしてまだ闇の中にいようとする君を押し返されたこちら側から、奪うために。

楽曲に鋭く込められた美矢の想いとは似つかわしく、僕のギターは柔らかくて温かい。

それは多分、君が僕にもたらした緩やかで確かな変化だとキッパリ言えるよ。