「プロ失格だね、ボクは。本当は、ここにアクセント置いてとか、音の頭はこうした方が、とか、言えることはいっぱいあったはずなのに、止めさせたくなかったんだ。ボクっていう人間のエゴかな」
たった1度きり、一発録りでレコーディングを終わらせた美矢は、歌い終えるとその場にへたり込んで、優もリテイクを求めはしなかった。
立ち上がれなそうな美矢を抱えて酸素の多いこちらへ運び出すと、いつも通りのやわこい、高くも低くもない声で「だるい」と3文字だけ言い放ち、壁際にまたへたり混んだかと思うと横になって目を瞑ってしまった。
流石に地面にそのまま転がすのは可哀想だから、僕は隣に座って彼女の小さな頭を膝の上に乗せる。
時間にして1時間程度、エレキギターと歌声を撮っただけだったのに美矢の頭はじっとりと汗をかき、とてつもなく熱を帯びている。
「アコギの音どうしようか。一応明日まで時間あるんだろう?明日に別録する?音源出来上がるの、後日になるけど」
「いや、大丈夫。アコギなら……僕がやるよ。必要ならコーラスも入れるけど」
美矢の額に張り付いた前髪をハンドタオルで拭いてあげながら答えた僕に、優はしかめっ面を見せる。
なんせ、長い付き合いになりかかったこの親友にすら、僕はギターを弾けることを言ってはいなかったわけだから。


