きっと、月が綺麗な夜に。

優のリクエストを4曲ほど美矢が弾き語り、2日目、レコーディングが始まりを告げる。


「仮音源とドラムとベースは昨日作ったから、残りはエレキギターとアコギと歌になるんだけど、じゃあエレキから入れようか。出来ればワウ使いたいんだけど行ける?」

「大丈夫、使えるよ」


どうやらエフェクターが使えるかどうかの確認みたいで、僕にはもう分からない世界だ。

優からヘッドフォンとギターを借りた美矢は、仮音源を聴きながら楽譜を確認し、自分が弾く箇所をペンでメモ書きしながら確認して行く。


「おいおい、これが本当に素人かよ。猫ちゃん、どっかでやってたべ?」

「育ててくれたじーちゃんの店でたまに、じーちゃんとお客さんがやってるバンドで弾いたりしてたから、そこそこ」


いつも縁側でのびのびと弾き語りをしている姿とは違う、楽曲と向き合うクリエイターの顔の美矢に、言葉が出ないほど見とれてしまう。

隣にいるのがもう当たり前のはずの少女は、本当はあの小さな島に住むにはもったいない人間なんだと思うと、胸がつかえて、何だか苦しい。

彼女はやはり、その才能で広い世界を飛び回るべき人間なのだろう。