きっと、月が綺麗な夜に。

「へえー、あんな歌い方も出来るの、へえー」

「うわ、音もなく後ろに立たないでよ。それに何そのリアクション。僕何もしてないからね、誤解するな」


固まっていた僕の後ろからにょっきり顔を出したのは、短時間で身なりをしっかり整えた優だ。
僕の返事につまんなそうに声を漏らした優は、興味の対象を美矢へと戻してとっとと離れて行ってしまう。


「さ、約束通り歌ってもらおうか。まずはボクのリクエストをたんまりと」

「わっ、すぐるん音もなく後ろに立たないでよ。びっくりした」


僕と全く同じリアクションで驚く美矢に、優は喜んでヘラヘラと笑っている。

すっかり打ち解けたのもあって2人とも肩に力が入っていないことに少し安心し、ある程度部屋の見てくれも悪くなくなったところで片付けを止め、座る椅子を用意して準備を始める。


優との長い付き合いで楽曲を制作するところを何度も見たことはあったものの、しっかりレコーディングを通しで見れるのは僕も初めてだ。

それこそ今日は出来ることがない分、どんな風に仕上がるのか楽しみである。