きっと、月が綺麗な夜に。

プレハブ小屋へ入ると、見慣れた懐かしい光景が広がっている。


「うわ、荒れてるね」

「作業集中すると散らかすのは昔からなんだよね。あいつが来るまでに片付けとこっか」


散らばった音符、放りっぱなしのゲーミングチェア、パソコンに乱雑に繋がれた音楽編集のための機器、弾いたまま適当に置かれた集音マイク、それらは、まさにここが優の戦場だった跡地だ。

それらを整える程度に移動している間に、美矢はいつも通り鼻歌を響かせながらゆったりと動き回る。

しかしいつもと違うのは、その鼻歌は、昨日完成にほぼ近づけた、美矢の作った楽曲だということ。
たまに「んー、違うなあ」なんてぼやきながら頭の中で作り上げたイメージを鼻歌に落とし込む美矢の声は、いつもよりハスキーな気がして、雰囲気が違う。


「なんか、ちょっと歌い方変わった?」

「誰かさんの影響かな。なんて言うか、あの日のあんたの歌は、結構グサッと刺さったし嫉妬したよね」


あの日、というなは、多分僕たちが傷を共有した月を見た夜のことだろう。
褒められて恥ずかしいのと、美矢には美矢の持ち味があるのにな、なんて思う気持ちと、美矢の歌声が無垢な少女から大人に化けたことに少し戸惑う気持ちが入り交じる。