「あれ、猫ちゃん寝ちゃったん?」

「優、作業するんじゃなかったの?」

「もうピアノだけ仮音入れたし。飲み物取りに来たの。ってか飯の時にほぼイメージ仕上がってるから」


美矢が寝てしまってからほんの数十分。いつの間にか冷蔵庫から取り出したらしい梅酒の缶をごつ、と僕の頭にぶつけてきた優は、美矢が丸まって眠る傍らに腰を下ろした。

僕もぶつけられた缶を受け取り、2人でささやかな乾杯をする。
プルタブに力を入れると子気味よくぷしゅう、と音が鳴り、空いた口から独特の香りが漂う。


「しかし、すげぇ化け物だよこの子は。明るいところにふわふわ佇んでそうな見た目して、闇属性かよ」

「だから刺さるのかもね、色々」

「かもね。その分、曲は重くなり過ぎないようにしないと選り好みされちまうよ。あー、大変な案件引き受けたわ」


言葉とは裏腹にヘラヘラと笑う優は、多分美矢というコンテンツに、毎秒ごとにクリエイター心をくすぐられてワクワクしているのだろう。


「MV撮影、もちろんボクの予定が空いてる時にやってくれるんだよね?」

「えー、この子気まぐれだからなぁ。見に来たいならこの子に合わせてよ」


なんて何でもない会話をしながら、気持ち良さそうな寝息をBGMに、心地よい空間をほんの少し楽しんで、僕たちは疲れを和らげた。

明日は、美矢の歌声が乗っかって、彼女の伝えたいことが完成する。