車でおよそ2時間程の、県内で2番目に栄えているその市内の一角に経った一軒家が、優の昔からの本城である。


「あ、おうちは後で案内するから、こっちに来て」


そう言って先を歩く優に案内されたのは、家の中ではなく、庭から少し離れたところにあるオレンジ色のプレハブ小屋。

真ん中の濃い橙色の扉を開けば、そこはテレビや動画で見た事のあるような、設備の整ったレコーディングスタジオになっていた。


「いやー、この時代に生まれてよかったよね。わざわざ都会に出なくても、うちの無駄に広い庭に仕事場作って好きなこと仕事に出来るんだから」


よく分からないレコーディングに必要な器具やエレキギター、ベース、ドラム等の楽器、作曲をするためのパソコンや周辺機器綺麗に整頓されたこの空間、大学時代に良く通った記憶がある。


「大学生の時、とらちゃんには世話になったよね。ボクのスランプ期、随分作詞のゴーストやって貰ったっけ」

「うん、ちねり出したよね、僕の語彙力全てを」


僕と優の懐かしい大学時代の記憶を「ふーん」と適当に流した美矢は、その空間に目を輝かせ、ほう、と感嘆の声を漏らした。