「せんせー!早く!」


大人だと、逆に足場を取りづらいような草むらと石段の先、貴人の呼ぶ声の方へとたどり着くと。


「え……遭難者?この、一周すんのに2時間かからない島で?」


そこには、あどけない顔で丸くなって寝ている、一人の少女がいた。
少女はくすんだグレーとも黒髪とも取れる襟足の長いショートカットに、青白い肌、サーモンピンクの袖がダボついた長袖のサマーニットに、太めのダボついたパンツ姿で、島では見かけない風貌の人間だ。

その少女のふっくらとした頬を毛づくろいするかのように、クロミが優しく舐めている光景に数秒見とれてしまったが、すぐに冷静になり、さーっと血の気が引く。

武明先生から聞いた話だと、トメ子さんがクロミに絡まれたのが結構な朝だ。ということは、少なくとも、丸一日この炎天下で少女はここにいたと考えられる。
そうだとしたら、だいぶまずいだろう。


「大丈夫。この人寝てるだけだよ。気持ち良さげにスースー言ってるもん」


そんな僕の考えを読んだのか、至極冷静に、困ったように千明が笑って告げた。


「よーく見るとでっかい水抱えて寝てるし、多分、あの大きいバッグ、この人のだと思うよ」


僕も近づいて見ると、言う通り気持ち良さそうさそうに寝息をたててる少女。その腕の中には2Lのペットボトルと、小さな靴の色と同じ赤いポシェット、そして、傍らにはでっかいリュックサック。

どうやら熱中症ではなさそうだ。それが分かってほっと、肩の力が抜けた。