会話はそんなにないけれど、流れる時間は穏やかな晩ご飯終わり、2人で片付けを済ませ、心地よい涼しさの縁側に腰を下ろして空を見上げる。

今日は細めの三日月だ。満月ではないけれど、僕は三日月が好きだ。三日月の放物線は、美矢が笑った時の瞼の放物線と、とてもよく似ている。

ギターのメンテナンスは多分、美矢より僕の方が得意。手馴れた手つきでギターの弦を外して、クリーナーで拭いて綺麗にしながら、僕はそっと話を始めた。

八百屋を営みながらたまに本土のライブハウスで歌を歌っていた父と、父の見た目と歌声に惚れ込んで、僕を作って半ば強引に結婚に持ち込んだ母のこと。

僕が4歳の頃、本土の高校から就職しないで何でも屋を開業して島に移住したりょーちゃんのこと。

そして、6歳の時に父を亡くし、母から愛されずネグレクトを受けたこと、ギターを弾くこと、歌うことを母から嫌がられ、否定されたこと、その頃にりょーちゃんに世話になったことや『あの日』の出来事と、りょーちゃんと養子縁組をしたこと。


今ここにいる『冴島虎治郎』が、美矢にとっての『とら』が、僕が、どういう生い立ちか、長くなり過ぎないよう、穏やかに、簡潔且つ淡々と、ギターの調弦まで終わらせる間に独り言のように話した。