誰も何も言えなかった。口を開くのを許される雰囲気ではなかった。
來の手が、するりと抜ける。
盗み見た彼の横顔は、薄く開いた唇が微かに震えていた。
「どういうことだよ…」
ポツリ、隣にいる私にしか聞こえない程小さく、來の声が零れた。
岸飛鳥。水憐の、タブー。
「おい沙耶!これ本当なのか。お前が飛鳥を、嵌めたのか?」
物凄い剣幕で小谷沙耶に詰め寄ったのは、晟也だった。
いつもの緩い彼ではなかった。
床にへたり込んでいる小谷沙耶の胸ぐらを掴んで問い詰める。
晟也がそんなに、彼女のことを慕っていたとは知らなかったな。
「だって、私…!來がどうしても好きで…」
ハラハラと涙を流しながら、晟也の怒りに震える。



