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飛鳥の復讐の為に、この身一つで此処に来た春の日。


世界を恨んでいた私には色が無くて、ただ飛鳥を死に追いやった彼らの憎しみだけで生きていた。


だけど皮肉にも箱を開けてみれば私の世界に色を付けたのは彼らだった。


もうこの街には思い出が沢山あって。


水憐の倉庫。伊織が心を開くきっかけになった交差点。美穂の家。エルコウ。


知らない街並みではなくなった。彼らと過ごした毎日が、知らず知らずのうちに私を変えていった。


家の前のこの塀に寄りかかって、私を待っていたあの朝。


來は私の顔を見て、ホッとしたように顔を綻ばせた。


思い出すだけで泣いてしまいそうな、苦しくて脆い記憶。