「落とされたくないんだろ?」


ヘルメットで顔は見えないけど、きっと彼は揶揄うように笑っている。


ここは大人しくしていた方が良さそうだ。


そう思い直した私はギュウッと彼の背中にしがみついた。


筋肉質で大きな背中。


暴走族・水憐の、総長。


この体一つで裏の世界に飛び込んだ私は、無事に帰ることが出来るのだろうか。


きっと無理だろうな。


彼らに復讐を遂げた暁には、一緒に底まで墜ちるーーー。


そんなこと、とっくに覚悟の上だ。


來が私を気遣ってあまりスピードを出していないバイクは、乗り心地が良かった。


初めて見る風景が次々と移り変わる。


改めて私は『此処』に来たんだと思った。