◇◇

青い空に風船が飛んでいた。


誰かが離してしまった風船。


もう戻ってこない、それ。


萎れて地べたに落ちているのを誰かが掃除するか、もしくは誰にも見つけて貰えないか。


その手を離してしまったらもう、戻っては来ないのだ。


「華月」


紘斗が横から私の名前を呼ぶ声に、そちらを向く。


「ん?」


「どうした、ボーッとして」


本当に。紘斗は私の変化によく気が付く。


「ううん、何でもない。行こっか」


心配をかけないように笑みを浮かべて立ち上がった。


歩き出した私の後を紘斗が追ってくる。


1人足りないこの光景にも慣れてしまった。