驚いた。彼は思ったよりもずっと真剣に、私を受け入れようとしていたんだ。


私の仮面なんてとっくに見透かして、私と彼の間にある底なしの距離を、1歩ずつ。歩み寄ろうとしてくれていた。


静かな部屋で、見つめ合う。何か返事をしなくちゃいけないのに、頭が回らなかった。


だから嫌だったんだ、その瞳は。


引き摺られる。知らない内に手繰り寄せられて、気付けば彼の腕の中。


どうしてこんなに取り乱されるのか。決して彼に心は奪われない、そう誓ったのに。


ピンと張り詰めた糸は強いけれど、それでいて脆い。


まさに今の私はそれだった。微かに入れられた傷が、徐々に解れ、細くなって。


完全に切れてしまうか、その前に逃げ切れるか。