「ハナはその大切な人のこと、もう乗り越えられた?」
重たい口を開いたかと思えば、私の話?
「ううん、一生忘れられないと思う」
勘づかれない程度に本音を織り交ぜて、まだ虚ろな目をする伊織の様子を探る。
私の返事に何を感じたか分からないけど、少しの間伊織は黙った。
横断歩道のピヨピヨという音が、静寂だけは避けてくれる。
「…俺も、此処で大切な人を失った」
勢いを増す雨が叩き付けるあの横断歩道を見つめて、ポツリと呟いた。
私の想像とはかけ離れた彼の話に、どんな反応をすればいいのか分からない。
息を吐くように言われたそれが余計に痛々しく、血塗れた涙を流しているようで。



