右肩に置かれてある晟也の腕をさり気なく下ろしながら私は言う。


「私には、忘れられない人がいるの」


こちらの様子を興味なさそうに眺めていた來と目が合う。


それを見て、私はゆっくりと口角を上げる。


來が私に何かを思う前に晟也の方を向いた。


「だから私じゃない子と遊んで」


「ちぇー、久々に当たりだと思ったのにな」


脱力して空を仰ぐ晟也に苦笑して、私はお弁当を食べ始めた。


この場にいる男のうち、高野伊織だけは一言も喋っていない。


ソファーに横になっていて、寝ているのか起きているのかすらも分からない。


だけど私たちの話し声にようやく気付いたかのように体を起こした。