リョウを見かけたのは偶然だった。

 偶然? ううん、本当は無意識に探していたんだと思う。

 だって昼間の駅前なんてほとんど遊びに来たことがないし、誰かと約束したわけでもない。
 本屋さんに行く、という指令を自分に出し、駅ビルへ向かう午後。そこには、リョウに会いたい気持ちがあった。

 透明のラップに包んだみたいに隠しきれない感情が、太陽の下でさらされている気分。今日も快晴で、少し前の梅雨が嘘みたい。

 駅前の大通り、といってもそれほど大きくない道幅だけど、その向こう側でマンションの建設が行われていた。

 リョウのバイト先はここなのかも……。

 ブルーシートで(かこ)われたなかで、たくさんの人や重機(じゅうき)が動いている。カンカンと甲高い音がずっとしていた。
 黄色いショベルカーの手前で何人かの作業員が立ち話をしている。

 好きな人ならすぐにわかる。真ん中あたりにいるリョウに視線がロックされた。
 バイクと同じ黄色いヘルメットをかぶり、年上の人たちになにか言われている。顔を斜めにして、じっと聞いているリョウの目は鋭い。

 怒られているのかな……。

 入り口に隠れるように立つ。
 年配らしき作業員がリョウの頭をパコンと叩いた。ビクッと体が飛びあがりそうになるほど驚いたけれど、その作業員の顔は穏やかな表情を浮かべていた。
 つられるようにリョウも表情をやわらかくしてなにか言った。周りから笑い声が生まれ、今度こそリョウが顔をくしゃくしゃにして笑う。
 おかしそうに笑う声に、私の表情も緩んでしまう。

 セミの声が夏を割るように鳴き、ふいに我に返った。

「……なにやってるんだろ」

 これじゃあストーカーじゃん。

 急ぎ足で駅ビルの本屋へ向かった。

 自動ドアが開くと、冷房が体を一気に冷ましてくれる。
 額に浮かぶ汗を、もつれる手を落ち着かせハンカチで拭いた。

「もう……」

 かなり重症だ、と自分に診断を(くだ)す。

 結局、夏休みになってから、ひとりでPASTには行っていない。それどころか夜の街歩きも行けずじまい。
 明日香たちとの作戦までは大人しくしておこう、とか、伊予さんに勘づかれていることも理由のひとつ、ふたつみっつ。

 ――違う。

 作戦の前に店に行ったって構わないし、伊予さんだって好きにすればいいと言ってくれている。

 なのに、行けていないのは私自身の問題だ。