それがリョウと会ったとたん重荷はどこかへ飛んで行き、幸せな気持ちに包まれたんだ。
 
 やるせない気持ちを知っているのに、同じことをしてしまっている……。

 私に歩み寄ろうとしてくれた青山さん。最近はあまり話をすることがなくなった明日香。そして、モヤモヤ怪獣の成長を止められない私。
 同じ年で同じクラスで、だけど私たちはまったく似ていない。
 急に肩の力が抜けるのを感じた私は、体を少し前にしてふたりに顔を近づけた。

「あのさ、相談があるんだけどさ」

 切り出す私にふたりは黙ってうなずいている。

「何回か行った店があるんだけど、ちょっと最近行けてないんだよ」
「あ、リョウさんの店のこと?」

 勘のいい明日香があどけなく聞いた。返事の代わりにひとつうなずく。

「もしよかったら、一緒に行く?」
「行く」

 瞬時に青山さんが答えた。

「でもさ、そのお店、夜しか開いてないんだ。深夜カフェってやつらしくてね」
「それでも行く」

 もう決めた、というように青山さんは手帳を取り出すとメモし出す。

「明日香はどうする? 門限は確実に越えちゃう時間になるけど」
「えっと……」

 迷う明日香に青山さんは「簡単だよ」と言った。

「私の家に集まって勉強することにしよう。うちから前もって、喜久川さんのお母さんに連絡入れるから大丈夫」
「じゃあ、うちの伊予さんにもお願いできる? なんでも屋さん……家庭教師兼家政婦みたいな人なんだけど」
「もちろん。こう見えても私、クラス委員だから。お盆の時期とかはどうかな?」
「お盆ならいいかも。あ、お店やってるか確認しておくね」 

 ここ数年で最多の発言数を更新している気がする。

 結局、リョウの店には八月中旬に行くことになった。それまで、各自が小出しに『今度、友達の家で勉強会をやる』と、親たちに伝えることになった。
 小声で作戦を決めていると、なんだか友達みたいでこそばゆい。

 ポケットのなかで、リョウに借りたペンダントが鼓動を打っているような気がした。