待っていたエレベーターの扉が開くと、紗和ちゃんはいの一番に乗り込んだ。私も続いて乗り込むと、彼女が5階のボタンを押しながら言った。

「そりゃ、なりたいですよー。なんてったって、蕪木さんは広報のマドンナ。みんなの憧れ。」

 その言葉に、思わずピクッと眉が動いた。


「それ、恥ずかしい。」

「いいじゃないですか。さっきの人だって、蕪木さんの気を引きたくてああやって声かけてくるんですから。」

「今時マドンナって....。誰よ、そう呼びだしたの。完全にいじられてる。」


 いつからか、知らない人から声をかけられることが多くなり、マドンナなんて呼ばれていることを知った。実際、そう言われる度に恥ずかしくて仕方ない。エレベーターの中で、思わず耳を塞いだ。


「ちなみに彼氏さんは妬かないんですか?彼女がこんな人気者で。」

 5階に到着し、そのまま化粧室へと移動した私たち。鏡の前に並んで化粧を直していると、唐突に紗和ちゃんがそう言った。

 私は一瞬手を止め考えてみると、祐一には会社のことをあまり話してこなかった気がした。

「妬くもなにも、人気者じゃないし。どっちにしろ、マドンナなんて呼ばれてるのも知らないかな。」

「えー。そうなんですか??」