「えっと、その....、ありがたいお話なんですけど、どうして私なんかに.....。」

 正直にそう言うと、隣にいた彼がニコッと微笑みかけてきた。その顔は、昔と何も変わっていない。

 少し長めの黒髪がクーラーの風に揺られ、前髪の隙間からは優しい瞳を覗かせていた。少し中性的な、端正な顔立ち。周りの女性たちの目は釘付けだった。


「たしか大学でフランス語、専攻してたろ?得意だって聞いてたから、今回の話にピッタリだと思ったんだ。」

 甘い、低音の綺麗な声。思わず、3年ぶりに聞いたその声に、心臓がドキッとした。

 そして、ずっとしまいこんでいた記憶が、一気に頭の中をめぐった。

「広報課からきてもらう人材としては、英語もフランス語も話せるなんて、願ってもない話なんだよね。」

 構わずそう話を続ける成宮さんの声に、私は耳を塞ぎたくなった。


「成宮くんは、今回のプロジェクトのリーダーを任されて、ロンドンから帰ってきたんだ。そんな彼からの推薦。いい話だよ。」

「ええ、はい。そう思います。」

「どう?語学には自信ある?」


 私はその瞬間、あらゆる可能性を考えた。ここで認めてしまえば、成宮さんとの仕事は避けられなくなってしまう。でも今ここで断ったら、こんな大きい仕事、もう二度と回ってこないかもしれない。

 そうして頭をフル回転しながら、出した答え。