でも、私はなぜか納得がいかなかった。結婚しているから大丈夫と言われても、そうは思えなかった。

 なぜだろう。何が引っかかっているんだろう。

 私は一人で考え込みながら、ふと頭に浮かんだのは帰り際に笑いかけてきた彼女のあの顔。


「詩音??」

 赤信号で止まると、彼が心配そうに私の顔を覗き込んできた。私はそんな彼の顔を見ながら、その違和感の理由が分かった気がした。

「ごめん、ボーッとしてた。」

 私は笑ってそう言うと、窓の外に目を向けた。


 あの人の顔が、ずっと引っかかっている。"少し嫌な感じ"を感じたあの表現。

 私は外の景色を眺めながら、思わずギュッと手を握る。モヤモヤした気持ちをなくしたかっただけなのに、逆に膨れ上がる一方だった。


 その日、彼の前でウェディングドレスを試着しながら、私は心ここにあらずだった。試着室のカーテンが閉まるたびに落ち込み、自分でも何をやっているのかと頭を抱えた。