『高瀬グループの社長が、広報課を訪れた。』
その事実は一瞬にして広まり、一部の人にしか知らせていなかった婚約話も社内中に知れ渡ることとなった。
そして、相手が高瀬グループの御曹司というのが、良いゴシップネタになり、私は時の人となった。
「詩音、高瀬社長に相当気に入られてるね。」
「どうかな。」
「でも、わざわざ息子の婚約者の会社にまできて、直属の上司と話すなんて、そんなの誰も手を出すなって言いにきてるようなもんじゃない。」
あれから社内中の話題になり、会社に行きづらくて仕方がなかった。広報課だけでなく、他の課でも話題は私のことで持ちきりで、ランチの前にひな子が心配して様子を見にきてくれた。
「でも、噂って早いね。次の日にはもうみんな知ってるみたいだった。うちって、独自の週刊誌でも配ってたっけ。」
私は冗談まじりにそう言いながら、大きくため息をついた。
「祐一さんには、このこと言ったの?」
「うん。だけど、終わったことはどうにもできないって。そりゃそうなんだけどさ。」
「ま、高瀬社長もお年だっていうしね。世代交代には、支える妻は必須。身辺調査して問題ないなら、逃すわけにはいかないわな。」
「さすが、やり手だよ。根回しが早すぎ。」
私はもうため息しか出ず、ひな子と壁に寄りかかりながら、諦めたようにそう言った。

