それから数週間後。また、祐一が遅くなる日があった。
特に待っていたわけではなかったけど、紗和ちゃんの言葉を思い出して、気になって寝付けなかった。そして、しばらくしてガチャッと音がした時、時計を見ると3時を回っていた。
「おかえり。」
「うわっ、ビックリしたー。起きてたんだ。」
「うん。寝付けなくて。」
私はそう言ってリビングにいた祐一に近づいていくと、彼はソファから立ち上がり私を抱きしめた。
「ホットココア、入れてあげようか?」
「ううん、大丈夫。」
私は祐一に包まれる温もりを噛みしめ、彼の胸に顔を埋めた。そして、いつも通りの祐一の優しさにホッとしながら、香水の匂いがしないことにも安堵した。
でも、私はその瞬間、一気に現実へ引き戻された。
「お酒、飲まなかったんだね。」
香水の匂いがしないことばかり考えて安心していたけれど、それどころか、彼からは何の匂いもしなかった。飲み会だと言っていて、お酒の匂いがしないなんて。確信をついてしまった気がして恐ろしくなった。
しかし、それでも一切様子を変えない祐一。
「ああ、今日車だったから。ずっとノンアル。ひどくない?」
私は、さらりとそう言う彼が、少し怖くなった。

