「んー。なんでだろうなー。」

 すると、彼は歯切れ悪く口籠もった。私はゆっくりと顔を上げ、ちらりと様子を伺うと、少し切なげな表情を浮かべている。


「本心はさ、そりゃ会ってほしくなかったよ。会わなきゃこのまま俺のものになるかなーとか、悪い俺もいたし。」

「うん.....。」

「でも、それはただの一方的な俺の感情なんだよ。.....詩音のお腹には子供がいる。もう二人は親だし、真剣に話し合う義務があるし、責任もある。」


 " 親 "

 私はその言葉に思わずドキッとして、責任という言葉とともに重くのしかかってきた。


「詩音を離さなくていいなら、どんなことでもする覚悟はあった。でも、今回は違うんだ。人として、ちゃんと話させなきゃいけないって、変な使命感でてきちゃったんだよ。」

 笑って誤魔化す彼。私はこの時、心底素敵な人だと感じた。


 どうして私はあの時、この人の手を離してしまったんだろう。ちゃんと話し合うべきだった。

 勝手に捨てられたと泣いて、待つだけで、自分から手を取りに行こうと思わなかった。


「ま、話し合った上で、俺を選んでくれればいいよ。詩音も子供も、俺が養ってあげるから。」

 そして、彼はコーヒーを飲みながら、ポンポンと頭を撫でてきた。私はそんな成宮さんと目を合わせながら、これ以上の言葉は見つからなかった。


「ごめん、ありがとう。」