その時、パッと腕を掴まれ、立ち上がった私たちの横でビールの缶が倒れた音がした。しかし、お互い気に留めることもなく、風の音がやけに大きく聞こえてくる。


「なに?」

 突然引き止められたことに目を泳がせながら、振り返れずに立ち止まる。

「本気だから。」

 すると、掴まれている腕にギュッと力がこもったのが分かった。

「馬鹿な事してるって分かってる。何言ってんだって。」

「須崎くん、やめて.....」

「でも、ずっと好きだった。かっこ悪くてもいい。助けたい。頼むから、俺にチャンスちょうだい。」


 葉の揺れる音が辺りを包み、私は結局何も答えられなかった。突き放すことも受け入れることもできず、この日はそのまま家に帰った。