石段を登る。

振り向いた眼下の先には、夏祭りの会場が広がっている。

いくつもの赤提灯がぼんやりと光っていた。



「もうすぐだよ、水瀬」


スマホを取り出して時間を確認している。

長い石段の真ん中で、白坂くんが笑う。

私の手を引いている。

それだけで鼓動が高鳴っていく。



必死に駆け登ると、ようやく辿り着いたその場所には、私達だけだった。



「……どうして、ここに?」


肩で呼吸をしながら白坂くんに問いかける。


「あぶね。間に合った」

「え?」


一番高い場所で、白坂くんが強く私の手を握る。


息を整える私を澄んだ瞳で見つめると──



3……2……1……と、白坂くんが数える。


ゼロになって、白坂くんが夜空を見上げた。


その瞬間だった。


ドーン!と夜の空に咲いた一輪の花。

それはまるで、魔法のようで。



去年の夏、見ることが出来なかった花火だった。