土方side




「よし、休憩」



木刀を持った男達は一斉に礼儀正しく頭を下げた。

あれから俺はこうしてこの町にある数々の道場へ出向き、出稽古のようなものをしている。


新撰組元副長、旧幕府軍元指揮官。

名の知れたそんな男が戦から離れ、この町に暮らしている───。


町人はそんな噂を聞き付けては、俺に「稽古をつけてくれないか」と頭を下げに来た。

百姓の出の男が刀を持った。

それだけで町人たちは皆して目を輝かせる。



「こ、こんにちは…」



皆さんお疲れ様です───。


そう言って遠慮がちに道場の片隅に立った梓が持つカゴには、何人分握ったのか分からない量の握り飯。



「毎日無理して作らなくてもいいって言ってんじゃねえか」


「ううん…楽しいから。今日はね、おかかと梅を入れたの」



1人1人に配っては本当に嬉しそうな顔をしていやがるから。

変わらねえな、と思う。



「可愛いよなぁ梓さん。ああいう人が男を立ててくれるんだろうな」


「確かに可愛いけどちょっと謙虚すぎるな。
俺はもっと積極的で、かつ可愛いより綺麗って方がいいな」


「馬鹿、お前わかってねえな。これから綺麗になる要素しかないだろ」