「……どこだここ」



買い物カゴを引きずるように、1人の少年は首を傾げた。


今日は大好きな人の誕生日だから1人でお使いに行く───。

そう意地を張った少年は。


歳は5つばかり、女の子によく間違えられる容姿をしていた。

サラサラ潮風に靡く黒い髪、白い肌、くりくりと大きな瞳は末広な二重。



「やべぇ…かあちゃんにおこられる」



それでも泣かない少年は、とりあえず歩くことにして。

買い物カゴには頼まれたお魚が入っている。


引きずってしまっているが、その手はしっかりと掴んでいた。



「お嬢ちゃん、迷子かい?」


「まいごじゃねぇ。おれは、おとこだ」



母には「あまり乱暴な言葉は使わないの」と言われていたが、少年の父はいつもこんなふうに言っているから。

母のことは大好きだけど、父のことも大好きだった。


おれのとうちゃんはすごい人だって、かあちゃん言ってた。