それはお買い物をした帰り道でのこと。


夏の終わりの夕暮れ時、住宅街では立ち話をする奥様方で溢れている。

そこまで多くはないけれど、チラッと聞こえるのは夫の愚痴に子供の愚痴。


捕まらないようにサッと通り抜けながらもふふっと笑った音に女達は気がついた。



「梓ちゃん!買い物帰りかしら?」


「はい、こんばんは…」


「いいわねぇ新婚さん!」



新婚───。


ポッと顔が赤くなる。

出来れば一々照れるんじゃなく、そろそろいい加減慣れたいところなのだが。



「あんなに格好いい旦那さんと毎日暮らせるなんて羨ましいわぁ」


「本当よねぇ。うちのと交換して欲しいくらいよ」



出来ればそれは遠慮したい…。

とは言えないまま、愛想笑いを決めてペコリとお辞儀。


そんな1人の女は手をパチンと叩いて、身を乗り出してくる。



「そういえば祝言は挙げたの?」


「祝言…?」


「一応はこれと言って決まってはないんだけれどね。ほら、言葉だけじゃなくて行動としての誓いも必要じゃない?」