「宗次郎が、総司が……我が儘を言ったぞトシ!」



なにがそんなに楽しいんですか、どうしてそんなに嬉しそうなんですか。

我が儘なんか面倒なだけなのに。


これが我が儘…?

ただ理由はなくても、それでも嫌だから「嫌だ」と言って拒否をする。


あぁそうか。
梓も我が儘だったんだね。

我が儘なんか家族にしか言えないよ。



「誰が見捨てるものか。…ただ総司、お前は1つだけ間違っている」



初めて近藤さんと会ったときのこと、僕は今でも鮮明に覚えていた。

姉の手に引かれた場所は古くさい道場で、離れたくなくてぎゅっと掴んだ僕の手を新しく包んでくれた人。



『宗次郎、君は好きなものはあるか?』


『…好きな…もの…?』


『あぁ、好きな食べ物でも本でも遊びでも何でもいいぞ!俺はなぁ三國志が好きなんだ!その中でも劉備は───』



自分の名前を名乗るよりも先に、僕の好きなものを聞いてきたその人。

結局は自分の話ばかりで、屈託無く大きな口を開けて笑う兄のような人を気付けば大好きになっていて。


自然と姉の手から離れたのは僕だった。



「お前は俺達にとって人斬りでも剣でも無い。…誰よりも泣き虫で愛嬌があって、昔から何も変わらない可愛い弟だよ」