「…バカ、急にこんなの渡すなよ。せめて予告してくれよ」

「え?ダメだった?」

「…ダメな訳ねぇだろうが、クソ」



消え入りそうな声で呟く武に少しだけ意地悪をすると武はギロリとこちらを睨んできた。


これは相当嬉しかったんだな。
もうずっと武と一緒にいるけどバレンタインを渡すのは初めてだから。



「…ありがとう。嬉しいよ」



武は未だに顔が真っ赤だし、どこか不機嫌そうな顔に見える。
それでも私にはこれが嬉しさのキャパがオーバーしたからなのだとわかっていたので問題はなかった。

こんなにも喜んでもらえて私も嬉しい。




*****




次に渡せるタイミングが来たのは琥珀と蒼だった。
昼食を食べ終えて教室に戻っていると琥珀から声をかけてきた。



「紅」



琥珀に名前を呼ばれただけで何を催促されているかわかってしまい思わず苦笑いを浮かべる。
本日も無表情な琥珀のお隣にはこちらも本日も胡散臭い笑顔を貼り付けている蒼が立っていた。



「はいはい。教室にあるからちょっと待っててね」



はは、と琥珀に笑いかけて私は足速に教室へと向かう。そして鞄から琥珀と蒼のチョコの袋を出すとすぐに琥珀たちの元へ戻った。