愛は惜しみなく与う⑤

「鈴ちゃん、大丈夫?待っててね」


ダメや

いかんといて


でも声が出ない


あたしの腕を掴むサトルの手に、力が込められた

い、たい

無情にも応接間の扉がしまる




あたしはもう、何も考えられへん状態やった。ただ震える身体を押さえつけて、冷静になれと自分に言い聞かす


でもそんなの無理やった




「やっと会えた」


目の前のサトルがあたしの顔を覗き込む。不快すぎてあたしはサトルを突き飛ばしたが、掴まれた腕はそのままで

バランスを崩してサトルの方へ身体が傾く


おかしいやろ

なんやねんこれ



「如月冬馬って…誰」



語彙力もなくなる。
今いるはずなんは、如月冬馬やろ?
如月冬馬は、鈴の婚約者やろ?
母上とも前から面識あるんやろ?

なんで目の前にいるのはサトルなん?



思うことはいっぱいある。
こんなに混乱したのは人生で初めてかも知れへんな。


人は本当にパニックになると、言葉が上手く出てこない

震えを押さえつけていた身体。そして、ピタリと身体の震えが止まった

その瞬間




目の前のサトルの腹に蹴りを入れる


小さな声を漏らし、サトルは数歩後ろへ下がった




「相変わらず強烈な女」