愛は惜しみなく与う⑤

ソワソワしてとりあえず床に落ちて、割れたティーカップに手を伸ばそうとすると、声がした


「お母様、僕が」


扉の方で男の声と母上の声がして、すぐ側に如月冬馬が来た気配がした。

あたしは人の前でやらかしてしまったことに少し焦ってたのか、母上と如月冬馬の方を見ることはできなかった。


「鈴さん、大丈夫ですか?怪我は?」


「ええ。大丈夫です。すみません」


やばいやばい。高そうな絨毯に紅茶も飛び散ってる。最悪や

持っていたハンカチを使おうと自分のポケットを触るが、ハンカチがない。
日頃からハンカチなんか持たへんもん!

そんなあたしの目の前に、真っ白の高そうなシルクのハンカチが。


「お使い下さい」


差し出したのは如月冬馬



「あ、ありがとうございます」



あたしはようやくその瞬間…ありがとうと言う、その瞬間に初めて、如月冬馬の方を見た


微笑んで感謝の言葉を伝えたはずやった





けどあたしは、ありがとうと最後まで言えたか分からへん。
一瞬、心臓が止まった。

そして、自分の身体が震えだしたことに気づいた






「なんで…あんたが……ここにおるねん」