愛は惜しみなく与う⑤

母上はウキウキしながら扉の方へ向かう


あたしは無駄にソワソワしてきて、どんな顔をしていたらいいのかもわからず、落ち着きなかったと思う

母上が扉の隙間から顔を覗かせ、久しぶりと話しかけた


ようやくや


ようやくサトルと繋がる人に会える


嬉しいような複雑な感情やけど
何かの手掛かりになるはずやから


あたしも部屋に入ってくる如月冬馬を出迎えようと立ち上がったら、テンパってるのか、落ち着きのないあたしの手が、机の上のティーカップにぶつかる


「あつッ!」


淹れたての紅茶が手にかかる。
熱いって咄嗟に思ったけど、やってしもたって気持ちの方が大きくなる

日頃ならきっと


母上は鈴を叱るやろう


床に落ちたティーカップ。ティーカップは当たり前のように割れる

中の紅茶はこぼれた

この一瞬で色々なことを考えた
まず割れたこの破片を拾わなあかん。てゆうか拭かなあかん。てゆうか…母上が怒るか?

人前で…客人の前で粗相は、やらかした



「鈴ちゃん、大丈夫?」


驚いた声を母上が出す。さすがに客人の前では怒らへんか?