愛は惜しみなく与う⑤


「おい、杏!!慧が英語は教えるの嫌だって、どっか行っちまった」

朔がガタガタと机をあたしの方に持ってくる。

朔の英語な…破滅的やからな
逃げ出したくなる気持ちはわかる


「俺は少し休憩するね」


響は、朔がんばりなよ?と、教室を出て行った。


「なんだ、あいつ。腹でも痛いのかな」

「……かもな。とりあえず何処が分からへんの?」


響に変な気を使わせてしまったな
元気のない笑顔。
あたしは、ほんまに下手くそやな、こういうの。

もっと上手に…

いや、ちゃうな


上手にできてしまったらきっと
あたしはあたしじゃなくなる。
悩んだり、まだ諦めきれへんかったり…そういう気持ちがあるから、まだあたしはあたしで居られる


嘘つくのも誤魔化すのも得意になったら


それはもう、あたしじゃないよな


「おーーい?お前も腹痛いのか?」

「んーん。朔がアホすぎてどうやったら覚えてくれるやろかって、必死に悩んでた」


は?んだよ!
そう怒る朔は、教科書に目を移し呟く



「お前が…元気ないから……。覚えれるもんも覚えれねーよ」