愛は惜しみなく与う⑤

人は誰かに執着することがある。
俺もある意味、親父に執着していた

理由は勿論ある


理由がなきゃ、誰かに執着することなんてない


あの勘の鋭い杏が、わからないと言うんだ。本当に杏は心当たりがないんだろう。

でも何かあるんだ

理由が絶対


「ちょっと待ってよ…じゃあ、杏ちゃんは何のために?妹さんが生きてるなら…何のために頑張ってるの?何のために…復讐するために、また高校まで通ってるんだよ?」


「そうだよ。もし生きてたら…杏の努力も何もかも…」


無駄


その言葉をみんな使えなかった

杏が悩んでいたことも知ってる。その過去で苦しんでいることも知ってる。

だからそれを

無駄なんて口に出せなかった



「ねぇねぇ。ずっと思ってたんだけどさ」



重い空気の中、慧が口を開いた。
みんなが思っていて、俺も思っていたけど、聞いてはいけないような気がして聞けなかったこと。

何もないと自分に言い聞かせていたことを



「妹さんが死んだからって、また杏ちゃんが高校を通う理由には、ならないよね」