蒼との暮らしにもかなり慣れてきた。


初めて病院のベットで蒼を目にした第一印象は冷たくて寂しそう
な人だと思った。

低めのハスキーボイスは優しい言葉を掛けてるにも関わらず、その
目には何の感情も見えなかったから・・・。

それなのに、私は蒼に縋らずにはいられなかった。

冷たそうに見えたのに、私には唯一の味方のように思えた。

自分の事が何一つ分からない、でも日常生活には困らないくらい
他の事は大体できるが自分には不安しかない。


蒼はそんな私の心に添うように、この暮らしを提案してくれた。

二人で過ごす時間は、まるで春の木漏れ日のように穏やかにゆっくり
流れていくようだった。


退院した日のショッピングから、中川の妻の環さんが週二回来ては
料理を教えてくれるようになっていた。

初めは上手くできなかった料理も、環さんの教え方が上手いのか
メキメキと上達していった。

「碧ちゃん、今日はラタトゥーユを作りましょうね!」

「ラタトゥーユですか?」

「簡単にいうと野菜のトマト煮込みかな?
 これから夏野菜が沢山出てくるから、覚えておくといいかも。」

「はい!」

早速、環さんと一緒に材料を切っていく。