「あのな、ウサギちゃん。刑事ってのはな、確定した事実をほっくり返してるほど、暇じゃねぇんだよ。他人に知られたくねぇから隠すんだ。もう、ほっといてやれ」


「だって、何か見逃してるかも知れないじゃないすか」


「じゃあ、オマエの云う“隠された事実”って何だ。云ってみろよ」


「それを云われると、ちょっと……」



 真里はもう一度、深くため息をついた。
 しかし、その表情は笑顔とは云えないにしろ、呆れを宿した微笑みと呼べるものだった。



「だいたいなぁー、事実に隠したも隠されたもねぇんだよ。
たかが、人間ひとりが知ってる事実なんて、本当の事実とは云わねぇのさ。沢山の人間が知って、初めてそれが“事実だった”と見なされるんだ」


「でもですよ〜、真里さん。“真実はひとつ”みたいに云うじゃないすかぁ」


「バカだなぁ、ウサギ。自分で云ってて気付かないのか? “真実”と“事実”は別もんだよ」



 真里は上からウサギを見下ろし、鼻で笑った。