「ほお、そいつは良かったな、ウサギちゃん。アタシには暇つぶしにもなんなかったがねぇ」


「そうすか? それなりに読めたけどなぁ」


「で? オマエの感想は“面白い”って、それだけか?」


 ワントーン落とした声は皮肉を含み、本来なら部屋の温度を一度ばかり下げてもおかしくはないのだが、ウサギ自身は一向に感じないらしく、周りにいた同僚達には、季節柄、冬毛のせいなのだろう、とさえ思わせる。


「だって、他になんかありました?」


「まさか、ウサギ……読書感想文を書くために読んだ訳じゃなかろうな」


「いや、書けって云うなら書けますよ。俺そういうの得意でしたから」



 この時、室内の温度は更に二度ほど下がり、真里自身は逆に二度ほど上がったのだが、それに気付いたのは肝心のウサギ以外の全員で誰ひとり口を挟むことはしなかった。