しかし、僕は彼女のおかげで少し壁を越えられる気がしていた。
そう思っているうちに、まるでプラットホームで旅立ちを合図するように電話が鳴る。
相手は新聞の編集者からで、少し訂正をしてほしい箇所があると云う旨だった。
僕は訂正箇所を指摘してFAXして貰うことにした。






FAXを待つ間に彼女のことを想いながら、煙草をふかした。








そして、彼女の名前を未だ知らないと云う失態に気が付いた。
彼女も僕の名を聞かなかったし、僕も彼女の名を尋ねなかった。












そもそも二人だけの世界なら、名前など、さほど意味はないものなのかも知れないと思った。