店に着くと約束の時間より少し早いことに気が付いた。


美味いコーヒーを飲み、新聞を広げ、僕は僕のことを考えていた。





「あらっ、早かったのね」


肩を叩いたのは彼女だった。


僕は突然に現実の世界に引き戻される。


「だいぶ待ったみたいね」


煙草の吸い殻を見ながら彼女が云った。


「ああ、少し早めに着いたんだ」


まだ、現実の世界に戻りきっていない何分の一かの自分をたぐりよせながらの返事だった。


「私と会うのが楽しみだった?」


彼女はそんな僕に、小さい子供が意地悪そうに口角を上げて笑うように笑った。


口の中で“えっ”と云った後で、実はそうだったのかもしれないと僕は思った。



「そんなはずないか。でも嬉しいわ、来てくれて。本当は来てくれないんじゃないかって心配してたのよ」


ちょっと寂しそうにして彼女が眉間に皺を寄せながら云ったので、僕は慌てて


「そんなっ。約束は守る男だよ、僕はね」