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「光里ー! 昨日約束したやつどう? もうやったか⁉」


教室の扉をくぐろうとしたときだった。
中にいた男子たちの、大きな声が飛んできた。



「 “できない” に賭けてたヤツが多かったよな」

「“できる” に賭けた奴のほうが 儲けはでかいぞ」

「くそ〜。 桃音チャン早く登校してこないかなー!」


なんの話か、すぐには理解ができなかった。

でも今、たしかに桃音チャン、とわたしの名前を呼ばれた気がする。


わたしはここにいるけど、こおり君の背中に隠れているせいで、中の人たちからは見えてないみたいだった。



「三万もの額が動くこと、ちゃんと考えてやれよ?」


あんな声と、


「桃音チャン、光里にもしキスされたらさぞ喜ぶだろうな〜。健気だし、夢見させてやる俺たち優しい〜」


そんな声と、


「っ、おいバカ。桃音チャン、すぐ後ろにいるぞ⁉」


……こんな、声。

頭が真っ白になる。


次に聞こえたのは、「ごめん」という抑揚のない、こおり君の声だった。


「おれが桃音とキスできるかどうかって、そーいう賭け事」


……何を言ってるんだろう。
脳が考えるのを拒否しているみたい。


手首を引かれたのが、ぼんやりとわかった。


距離が縮まる、目の前が暗くなって

──唇が重なった。



学校で、キス。

夢みたいなハナシ、地獄みたいな現実。


冷凍庫に入れられたままの

こおりは溶けない。