「ぷっ、あはは」

なんだか急に可笑しくなって、笑いが込み上げた。


「なに笑ってんだよ。放り投げるぞ」

聖の荒々しい言葉も、今は笑いでかき消されていく。


「だって普通はイラついたからごめん、とか言うんじゃないの?」

私もそう言われると思って待ってたのに清々しいぐらいなにもなかったから、本当にそれが可笑しくて、可笑しくて。


「なんで俺がお前に謝らなきゃいけねーんだよ」

「うん。だよね。分かってる」

「その言い方すげームカつくんだけど」

そう言いながらも聖は私をおんぶして歩いてくれている。

その揺れが心地よくて、このまま遠回りしてくれないかなって思ったりもしてた。


「聖はひとりのほうがラクなの?」

聞こえなければいいな、という声のボリュームで問いかけた。


――『聖は人と関わらないことが正しいと思ってるからね』

まだ昴さんの言葉が耳に残ってる。
 

なぜだか聖の肩に手を回す力が強くなった。彼の地面を擦る足音だけが、耳に届いてくる。


「あいつらの匂いはキライだ」

そんな音に混ざって返ってきた声。


どうしてだろう。また胸がギュッとなる。